iDeCoやマッチング拠出で、所得税や住民税を節税しよう

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  • 60歳以降の資産形成を考えている人は、個人型確定拠出年金(iDeCo)や企業型確定拠出年金(企業型DC)のマッチング拠出で節税しよう。
  • 積立時と受取時に税制メリットがあるので、会社員や主婦などは上限まで拠出するのが良いが、自営業者の場合は上限まで拠出すると拠出しすぎでメリットも限定されるので要注意。
  • 会社勤めなどで退職一時金がある場合は、確定拠出年金の受取タイミングをずらすとさらに税金を抑えられる場合があり、55歳になる年以前に退職して20年後以降に受け取ると退職所得控除が最大化する。

長期投資に回せる資金があるならiDeCoなどの活用を検討しよう

  • iDeCoや企業型DCは原則60歳以降ではないと引き出せないが、60歳以降のための資産形成を考えているなら税制メリットがあるので活用を検討すると良い。
  • 国民に長期積立を促す制度で、選べる金融商品は元本確保型の定期預金、保険などや、元本変動型の投資信託があるので、取れるリスクに応じて選択するところだが、長期で見れば多少の変動リスクがあってもリターンが大きくなる投資信託を選択するのが良いだろう。
  • 拠出額については、iDeCoであれば自分で決められるし、企業型DCであれば事業者の拠出額に加えて自己負担で拠出額を増やすこと(マッチング拠出)も可能だ。後述する税制メリットがあるので長期投資に回せる資金があるならできるだけ多く拠出するのがよい。ただし、これも後述するが自営業者の場合の上限は月6.8万円だが、ここまで拠出するとメリットも限定されるので注意が必要だ。

積立時と受取時の税制メリット

  • まずは積立時。拠出額が所得控除されるので、たとえば所得税が10%、住民税が10%の人が、月2万円を拠出すると4000円の節税になり、30年間で144万円を節税する効果がある。
  • 次に運用中の配当などの利益が非課税になるのだが、無分配型の投資信託でも同じ効果があるので、これについては大きなメリットではないだろう。
  • 最後に受取時だが、一時金として一括の受け取り、年金として分割の受け取り、それらを併用する3パターンがあるが、退職所得として扱われる一括の受け取りを優先し、課税額が大きいなら併用も検討するのが良いだろう。以降では一括の受け取りについて記載する。
  • 退職所得の課税対象額の計算方法は『(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額』である。No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)(国税庁)
  • 税額の計算は『原則として他の所得と分離して所得税額を計算します』(同上)で、上記の課税対象額に対して累進課税の所得税がかかる。別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表(国税庁)
  • たとえば、月2万円を30年間積み立てて720万円の拠出金に対して運用がうまくいって1500万円になったとする。退職所得控除は40万円×20年+70万円×10年=1500万円となり、退職所得は0円で非課税となる。iDeCo等を使わずに運用すると売却益の780万円が譲渡所得となり、所得税と住民税による約20%の156万円を節税する効果がある。

拠出のしすぎに注意

  • 上記のようなメリットはあるのだが常にメリットがあるとは限らない。具体的には、自営業者は月6.8万円まで拠出できるが、拠出額を大きくしすぎて相対的に退職所得控除が小さくなるとメリットは限定的になってしまう。
  • たとえば、月6万円を30年間積み立てて2160万円の拠出をしたものの、ほとんど金利の付かない定期預金で運用したり、運用の失敗があったりで2200万円にしかならなかったとすると、退職所得控除は同様の1500万円、退職所得は350万円となる。ここに所得税20%(から控除額42.7万円を除く)で28.3万円、住民税10%で35万円を支払うことになり、40万円の運用益に対して63.3万円の税金がかかってしまう。
  • 仮に運用がうまくいって、2160万円の拠出が4500万円になったとすると、退職所得控除は同様の1500万円、退職所得は1500万円となる。ここに所得税33%(から控除額153.6万円を除く)で341.4万円、住民税10%で150万円を支払うことになり、2340万円の運用益に対して491.4万円の税金(税率21%)がかかってしまう。これであればiDeCoなどを使わずに譲渡所得として扱われた方が税率を下げられる。
  • 拠出額を増やせば、積立時の節税効果もその分大きくなり損をする話ではないかもしれないが、60歳以降まで解約できないリスクを考えると、拠出額を3万円程度に抑えるなどのバランスをとるのが良いかもしれない。

退職一時金と受取タイミングをずらして節税しよう

  • 会社員が退職時に退職一時金をもらえる場合、同じタイミングで企業型DCを一括で受け取ると、税額が増えてしまう場合がある。退職所得に対する税率は累進課税なので退職金の総額によっては税率が上がってしまうためである。別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表(国税庁)
  • そこで退職時は退職一時金のみ受け取り、企業型DCはiDeCoに移管して積立を継続し翌年以降に一括で受け取ると、個々の受取時の金額が抑えられて税率も抑えられる場合がある。
  • 以下で、同時受取、1年後受取、5年後受取を比較したところ、5年後受取が最も税額を抑えられた。逆に1年後の受取の場合は税額が増えている。
受取パターン同時1年後5年後
勤続年数33年33年33年
退職一時金1000万1000万1000万
拠出期間30年31年35年
拠出額720万726万750万
運用益780万780万780万
退職金①2500万1000万1000万
退職所得控除①1710万1000万1000万
課税退職所得金額395万00
所得税①37万00
住民税①39.5万00
退職金②1506万1530万
退職所得控除②1570万1850万
重複期間控除②-940万-940万
課税退職所得金額②438万310万
所得税②45.8万21.7万
住民税②43.8万31万
税額合計76.5万89.6万52.7万
退職一時金と確定拠出年金の受け取りパターン比較(管理人作成)
  • 退職所得控除と課税退職所得金額は、No.2732 退職手当等に対する源泉徴収(国税庁)より計算。
  • 重複期間が考慮されるのは、『前年以前4年内(確定拠出年金の老齢給付金として支給される一時金の支払を受けた年分は前年以前14年内(令和4年4月1日以後に支払を受けるべきものは19年内))に他の支払者から支払われた退職手当等(以下「前の退職手当等」といいます。)がある場合』(同上)とあり、退職所得控除からその期間分を差し引く必要がある。上表の例では、(1000-800)/70+20=22.8⇒端数切り捨てで22年なので、800+70*2=940万円を退職所得控除から差し引く。
  • 所得税は前述のとおり累進課税となる。住民税の税率は10%。
  • iDeCoは国民年金に未加入期間があればその分だけ64歳まで加入できる。2022年の制度改正の概要(国民年金基金連合会)
  • 積立継続時の積立額は月5,000円とした。iDeCoは月々5,000円から始められるため。iDeCo(イデコ)の仕組み(国民年金基金連合会)

退職所得控除の最大化

  • 重複期間が考慮されるのは、『前年以前4年内(確定拠出年金の老齢給付金として支給される一時金の支払を受けた年分は前年以前14年内(令和4年4月1日以後に支払を受けるべきものは19年内))に他の支払者から支払われた退職手当等(以下「前の退職手当等」といいます。)がある場合』なので、退職した年から20年後以降に受け取れば退職所得控除を最大化することができる。
  • 『受給権が発生する年齢(原則60歳)に到達したら、75歳になるまでの間に、一時金として一括で受け取れます』iDeCo(イデコ)の仕組み(国民年金基金連合会)なので、55歳になる年の12月までに退職して退職一時金を受け取り、75歳になる年に確定拠出年金を一括受け取りすれば、重複期間を考慮せずに退職所得控除を受けられる。
  • なお『前年以前N年以内』というのは確定拠出年金の受け取り年の前年からその年を含むN年間という意味。退職手続きについて(中小企業退職金共済事業本部)

まとめ(再掲)

  • 60歳以降の資産形成を考えている人は、個人型確定拠出年金(iDeCo)や企業型確定拠出年金(企業型DC)のマッチング拠出で節税しよう。
  • 積立時と受取時に税制メリットがあるので、会社員や主婦などは上限まで拠出するのが良いが、自営業者の場合は上限まで拠出すると拠出しすぎでメリットも限定されるので要注意。
  • 会社勤めなどで退職一時金がある場合は、確定拠出年金の受取タイミングをずらすとさらに税金を抑えられる場合があり、55歳になる年以前に退職して20年後以降に受け取ると退職所得控除が最大化する。

【編集履歴】

  • 2022/08/17:退職一時金と確定拠出年金の受取パターン表を追加。例の確定拠出年金の積立期間を勤続年数より短い期間に変更。退職所得控除時の重複期間を14年から19年に変更。全体的に体裁を修正。