被扶養者の配偶者に資産運用してもらって節税しよう

  • 被扶養者の配偶者がいる場合は、配偶者の所得控除の余りや税率を確認してみよう。
  • 配偶者が資産運用による所得を確定申告することで、その所得に対する税金がかからなくなったり税率が下がったりする可能性がある。
  • ただし扶養を維持するためには収入を130万円未満にする必要があるので、給与収入だけで130万円近くある場合は配偶者による資産運用は控えるのが良いだろう。

上場株式等の配当所得への課税

上場株式等の譲渡所得への課税

  • 次に譲渡利益に対する課税について確認する。
  • 上場株式等の譲渡所得は、源泉徴収ありの特定口座であれば配当所得と同様に所得税15%と住民税5%の合計20%が源泉徴収される。No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁)
  • 源泉徴収されていれば納税を完了させることもできるが、確定申告で申告分離課税にすることも可能である。(源泉徴収されてなければ確定申告は必須)

まずは損益通算と繰越控除

  • 株式等を売買すれば利益が出るときもあれば逆に損失が出る時もある。
  • 譲渡損失がある場合、特定口座での取引であれば配当所得と相殺される分の税金が控除される。No.1476 特定口座制度(国税庁)
  • 譲渡損失があっても特定口座以外だったり、別の証券会社などの口座に譲渡損失があったりした場合は、確定申告で申告分離課税として利益と損失を相殺する。No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(国税庁)
  • 繰越損失がある場合も、確定申告で申告分離課税として今期の利益と過去の損失を相殺する。

所得控除を受けよう

  • ここからが本題。被扶養者の配偶者が資産運用するメリットは主に二つある。一つ目は確定申告で所得控除を活用できること。
  • たとえば、パートやアルバイトの年収が80万円であれば、給与所得控除が55万円なので25万円の所得になるが、所得税の基礎控除は48万円なので所得控除が23万円分余っている。
  • たとえば10万円の配当所得を確定申告すると、10万円が全て控除されて源泉徴収の2万円が還付される。
  • 譲渡所得でも同様。こちらは分離課税となるが、総合課税に対して控除しきれなかった所得控除は分離課税の所得から控除できるため。税金の基礎知識(2)(大和証券)、第1節 所得税(野村グループ)

配当所得を総合課税にして税率を抑えよう

  • 仮にパートやアルバイトの年収が103万円あり、給与所得控除と基礎控除を使い切ってしまった場合でも、確定申告で税率を下げられるという二つ目のメリットがある。
  • 所得税の総合課税の税率は課税される所得金額に応じて5~40%で変わるため、前述のように源泉徴収時の税率15%より抑えられる場合がある。No.2260 所得税の税率(国税庁)
  • たとえば10万円の配当所得を確定申告すると、課税対象の所得も10万円なので194.9万円以下の所得に対する5%の税率が適用となり、源泉徴収の2万円から1万円が還付される。
  • さらに配当所得には、日本国内に本店のある法人からの配当などに限定されるが、上記の税率を下げた税金から税金自体を減らす配当控除という税額控除もある。No.1250 配当所得があるとき(配当控除)(国税庁)
  • 配当所得に対して最大10%の税額が控除されるので、10万円の配当所得に対して最大1万円の税額控除が可能になる。上記の例でいえば10万円に対して5%の所得税5,000円が全額控除され、最終的に所得税が0円になる。
  • ちなみに譲渡所得を総合課税で申告することはできないので、上記のようなメリットはない。

所得控除を増やそう

  • 外国株の配当なので配当控除の対象外とか、譲渡所得なので総合課税で申告できないとかでも、節税できる可能性は残されている。
  • 事前の準備が必要だが、生命保険や個人型確定拠出年金iDeCo(以降ではiDeCoと記載)に加入することで、所得控除を増やすことだ。
  • 生命保険にもいろいろあるが、中にはいつでも解約でき、解約しても元本割れしない預金のような生命保険もある。生命保険なんて不要と考えていた人でも検討してよいだろう。じぶんの積立(明治安田生命)
  • 月額5,000円を積み立てると年額6万円となり、そのうち3.5万円が所得控除される。所得税率15%の譲渡所得が控除されれば5,250円の節税となる。No.1140 生命保険料控除(国税庁)
  • iDeCoは、原則として60歳になるまで引き出すことができないというデメリットはあるものの、運用益が非課税になったり、受給時に各種控除が使えたりがあるが、ここではその年に積み立てた全額が所得控除になるというメリットが大きい。iDeCo(イデコ)の特徴?(国民年金基金連合会)
  • 満額で積み立てれば27.6万円が所得控除され、同様に譲渡所得が控除されれば4万円以上の節税となる。iDeCo(イデコ)をはじめるまでの5つのステップ(国民年金基金連合会)、No.1135 小規模企業共済等掛金控除(国税庁)

外国税額控除を利用しよう

  • 所得控除や税額控除を用いても税金が残る場合でも、税金を減らせる可能性は残っている。
  • 外国への所得税を支払っている場合は、確定申告して海外税額控除を受けられる可能性がある。No.1240 居住者に係る外国税額控除(国税庁)
  • たとえばパートやアルバイトの収入が103万円、米国株の配当が10万円、控除は給与所得控除55万円と基礎控除48万円だけだった場合、所得総額は給与所得控除を除いた58万円、国外所得は米国株の配当の10万円、課税対象となる所得は所得総額から基礎控除を除いた10万円、所得税率5%、所得税5000円となる。
  • 外国税額控除の限度額は、5,000円×(国外所得10万円/所得総額58万円)=862円となり、この例では所得税率が約4%になる。

住民税も確定申告しよう

  • 住民税でも確定申告することで様々なメリットを受けられるが、所得税と住民税はいくつか異なるところがある。
  • 同じところから説明すると、損益通算と繰越控除については所得税と同様に、特定口座内で損益通算できれば良いが、そうでないなら確定申告で損益通算しよう。
  • 総合課税で余った所得控除を分離課税の控除に使えるところも同様なので、所得控除が余っていれば確定申告しよう。個人の市民税・都民税の分離課税について(武蔵村山市)、分離課税(横須賀市)
  • 異なるところを説明すると、所得控除額は異なる。たとえば基礎控除は所得税が48万円に対して住民税では43万円だし、生命保険料控除も年額6万円を積み立てていても所得控除は2.8万円分だけ。
  • 最も大きい違いは、所得に応じて払う住民税の所得割の税率が固定されていて、多くの自治体で10%となっている。源泉徴収される住民税の税率は5%なので、確定申告で所得控除や税額控除しきれないとかえって税率が高くなってしまう。個人住民税(東京都主税局)
  • 配当控除もあるが最大で2.8%なので、適用できたとしても7.2%で源泉徴収時の税率より高い。配当控除の計算方法について(藤沢市)、住民税のさまざまな控除について(姫路市)
  • 外国税額控除は、住民税で個別に計算されるのではなく所得税の控除額の30%を上限に控除される。No.1240 居住者に係る外国税額控除(国税庁)
  • あと、住民税は所得に応じた所得割だけでなく、合計所得金額以上で一定額課税される均等割があり、その判定金額や税額は自治体により異なるが、たとえば東京都であれば45万円を超えると5,000円が課税される。個人住民税(東京都主税局)
  • 合計所得金額は申告不要制度を利用した配当所得や譲渡所得は含まないが、確定申告すると含まれてしまう。また繰越損失や所得控除の適用前の金額なので、最終的に所得割が0円になるケースでも均等割は0円にならない。目安としては10万円の利益に対して源泉徴収住民税は5%の5,000円なので、それより所得が小さければ住民税は申告不要にするのが良いだろう。
  • いずれにせよ、所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができるので、確定申告するか源泉徴収で納税を済ませる(申告不要制度を利用する)か、どちらが住民税に適しているか検討するのがよい。住民税において所得税と異なる課税方式を選択する場合(国税庁)
  • 確定申告の選択という点でいえば、複数の証券会社などに口座を保有している場合、源泉徴収ありの特定口座であれば口座ごとに確定申告するかどうかも選択できる。特定口座とは(国税庁)、上場株式等の所得にかかる申告について(加古川市)
  • 被扶養者だと所得が少ないので所得税については確定申告して、住民税については上記のように検討するのが良いだろう。

配偶者に資産運用してもらう場合に一番大事なこと

  • 配偶者に資産運用してもらう場合に一番大事なことは、資産運用による収入を被扶養の範囲に抑えること。
  • 被扶養の対象は、年金、健康保険、所得控除の3点があるので条件を順々に説明する。
  • まず年金については、国民年金の第3号被保険者になるには年収が130万円未満という条件がある。従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き(日本年金機構)
  • そして年収には資産所得などの恒常的な収入を含めるとある。国民年金法における被扶養配偶者の認定基準の運用について(厚生労働省)
  • ちなみに『この扶養の判定基準である「恒常的な収入」に株式の譲渡所得や配当が含まれるかについては明確な規定はありません。実務では、申告された配当について「恒常的な収入」に含めて計算していることが多いようです。』との資料もあるので、配当収入については含まれると考えておくと良いだろう。株式譲渡益・配当と社会保険料の関係(大和総研)
  • ただ、株等の譲渡収入も考慮する事例や、特定口座年間取引報告書で確認している事例もあるので、正確なところは役所などに確認すると良いだろう。株等の譲渡収入がある被扶養者の取扱いについて(公立学校共済組合鹿児島支部)、§7 被扶養者の認定及び取消(公立学校共済組合広島支部)
  • 次に健康保険については、同様に年収が130万円未満という条件がある。収入がある者についての被扶養者の認定について(厚生労働省)
  • ここでも年収の詳細は扶養する側の保険組合に確認するとよいだろう。
  • 最後に扶養側の所得控除だが、配偶者の合計所得によって扶養者の配偶者特別控除が減る。扶養者の合計所得金額が900万円以下で、配偶者の合計所得が95万円を超えると、扶養者の方の所得控除が38万円から減り始める。No.1195 配偶者特別控除(国税庁)
  • 年金と社会保険の収入が130万円未満というのは、給与収入控除55万円と基礎控除48万円(所得税の場合)を差し引くと所得が27万円未満に該当するため95万円より十分小さいことから、所得控除を意識する必要はないだろう。
  • 被扶養条件からすると、もし配偶者がすでに130万円近い給与収入を得ているのであれば、残念ながらここまで記載してきた配偶者による資産運用のメリットはないだろう。

まとめ(再掲)

  • 被扶養者の配偶者がいる場合は、配偶者の所得控除の余りや税率を確認してみよう。
  • 配偶者が資産運用による所得を確定申告することで、その所得に対する税金がかからなくなったり税率が下がったりする可能性がある。
  • ただし扶養を維持するためには収入を130万円未満にする必要があるので、給与収入だけで130万円近くある場合は配偶者による資産運用は控えるのが良いだろう。

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